葬儀は最近こそ専門式場で行われているが、昔は大半が自宅で執り行われ、自宅で不可能な場合や参列者が多い場合にお寺を拝借していた。
そんな時代に想像もしなかった事件が起きたことがあるので紹介しよう。
当時は香典を辞退することなんて「社葬」以外では皆無で、個人葬で辞退するようなケースでは受付を担当された方々と弔問者のやりとりに次のようなことも少なくなかった。
「喪主に持参して来たものではない。故人にお世話になったことがあるからお供えをしたいので、それを受け取らないとは私の心情はどうすればよいのだ」
昔の自宅葬では式場の玄関に家紋入りの提灯を設置するのが当たり前だったのだが、ある日、異なる筋で背中合わせのように2軒のお通夜が行われていた。
同じ時間に始まったお通夜だが、昔は今よりはるかに弔問者の人数が多く、お互い様感情の絆も強く、100人以下というケースの方が少なかったものである。
式場内でご親族の焼香が終わった頃、接待担当の女性スタッフが私のところへやって来て、「受付でややこしいことが起きています」と言われたので、きっと香典辞退でもめているのではと思ったのだが、ご当家は辞退をされていなかったことに気付いた。
では何が?と受付に行ってみると、サラリーマン風の5人ぐらいの方々が受付の人達と話し合っている。そこで判明したことは、同時間に行われている裏の筋のお通夜に行くべきなのに、間違ってこちらに来てしまい、香典を託されたことから返して欲しいというものだった。
それは、すぐ後に別のお通夜でも発生しており、お寺さんが下がられてから両家の遺族が香典帳を確認されて互いのやりとりを問題ないように正常化されることになったが、間違われた方々の話はそれこそ勝手な思い込みだったが、笑うに笑えない環境がそうさせたようだった。
「タクシーの中から提灯と黒い服の参列者の姿が見えたのでてっきり」
「焼香してご遺影を見て手を合わせたら、お父さんのご不幸と聞いていたのに女性の写真だったのであれ!?と思い、入り口の告知看板の名前を確認したら別名だったのですから驚きました」
「葬儀は人を集め、人を走らせる」という言葉があるが、こんな考えられないことが起きることもあったのである。