30年以上前の話だが、知人が喪主を務められる葬儀で想像もしなかった難題を持ち出された。それは、葬儀を終えてから行われる「御斎(おとき)」の食事に関すること。
当時は「供養」という観点からご当家の近くに存在する「仕出し屋」さんに依頼するのが慣例だったが、「難しい親戚が来るので何処か推薦するところはないか」と言われ、何とかしなければと考えたのが友人の実家が経営する料亭で、無理を頼んで式場となったお寺で配膳や接待まで担当して貰った。
それは大いにご満足のお声を頂戴し、「難しい」と言われていたご親戚の方も驚かれたそうで、そんな結果を友人に伝えて心から感謝し、すぐに料亭へお礼に参上した。
「初めで最後だろうね」と料亭の女将さん。息子である友人とは長い付き合いがあり、ご両親とも何度も会ったことから私の病的な偏食のことをご存じで、好物ばかりを準備くださってご馳走になったので恐縮した。
それから半年後、また大変な問題が発生した。冒頭のお葬式で受付を担当されていた方のお身内でご不幸があり、あの時の料理を何とかして欲しいと懇願されたからだ。
「お供養にいただいて来た料理だけど、中身や味も別格だったけど、折箱とお箸の木の香りに感心し、是非親戚の人達にも体感して欲しいのです」
そんなご要望から再度無理を頼むことになってしまったが、幸運だったのは同じお寺が式場だったこと。持ち帰りの分と、その場で召し上がれる方の料理を別に考慮され、温かいものは温かい内にと、境内にテントを一張だけ専用にすることを頼まれて準備、そこで様々な厨房器具を準備されて対応くださったのである。
それは、ご近所の方々に話題になったが、仕出し屋さんの3倍程度の予算を要したが、何方からもご納得のお声を頂戴し、その後、1周忌、3回忌などでもご利用されることになった。
その料亭のご主人が「匠」と称される料理人だったが、それから5年後ぐらいにお身体のご不調から廃業されたので寂しいが、今でも時折に語り草として話題に出て来る。
お箸のことが出て来たので、ある超一流ホテルの天麩羅コーナーで行われている面白い話題に触れておこう。カウンターに座って注文を済ませると、和服姿の女性スタッフが「どちらをお選びされますか?」とお盆の上の二種類のお箸を出してくれる。
それは、長いものと短いものだが、大半のお客さんが不思議そうな表情をされる。そこでスタッフの女性が次のようにアドバイスをする。
「掌の小さいお方様は短い方。掌の大きなお方様は長い方が使い易いと存じます。
それだったらお茶を飲んでいる時にでも確認して配慮してくれたらよいではないか、と考えるのはサービスの世界では甘いのであり、お客様に「そんなことまでしているの!」と感じさせるパフォーマンス型のサービステクニックである。